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「年越し蕎麦」    池田 郁英2015.12

『年越し蕎麦』 啜る(ススル)

 

 

年越し蕎麦の季節がやってきました。

全国津々浦々、ズズッ、ズズッと蕎麦をすする音が季節の風物詩になります。

 

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食文化、それに伴う食事マナーは国、民族、地域で千差万別、優劣はありません。

私たちは、音をたてながら食事をいただくのは行儀が悪いと教えられて育ちました。

明治の文明開化以来、西洋料理のマナーを特別に崇拝したからなのでしょうか?

そのせいか、時として麺類をススル、味噌汁をススル音に周りから嫌な顔をされてしまいます。

 

ザルソバはすすらないと美味しくない。ソバ、わさび、ツユ、ネギ,

これらが瞬時に味わいをかもし出すので、サット食わないといけない。

くちゃくちゃ噛んでも美味しくない。

西洋人はこういう微妙な味わいの感度がにぶいのです。それが証拠に

スパゲッティはすすってもおいしくない。

 

また、こんな話を聞いたこともあります。

 

パリに有名な手打ち蕎麦の店があって、そこでは見事な箸さばきで蕎麦を

食べている美しいパリジェンヌ達をしばしば見る。

だが、可哀そうに彼女たちは蕎麦をすすって食べない、いや食べることが

出来ない。

ひょっとしたら、西洋人は「ススル」ことが出来ないのかも知れない。

 

 

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私たちは、食べ物を口の中に入れてモグモグ、頃合いを見計らってゴックンと飲み込みます。

どうもこの「ゴックン(嚥下・えんげ)」に秘密があるようです。

 

口の奥には鼻・胃・肺それぞれにつながる鼻腔と食道、そして気管への入り口があります。

「ゴックン」する時、これら3つの孔が無意識に決まった順序でしかも瞬時に動き、弁のような働きで孔を塞いだり開けたりするそうです。

鼻腔が閉じ、気管も閉じ、次 に食道に食べ物が誘導される、確かに飲み込む時は必ず息を止め、鼻腔も閉めていますね。

そして何かの拍子にこの順序が狂うとむせたり吐いたりする悲惨な結果が待っています。

老人の誤嚥(ごえん)性肺炎は嚥下障害で肺に飲食物が入ってしまうことが原因、「ゴックン」が上手くいかないからです。

それにしても、人間の器官は本当に良く出来ています。

 

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「ススル」食べ方は、よく観察すると空気(息)と食べ物を一緒に流しこんでいます。

これは、神様が創ってくれた「ゴックン」機能に反し、誤嚥につながる危険な行為です。

私たちは、この危険極まりない高等テクニックを瞬時に駆使して蕎麦をすすっていたのです。

もしかしたら、「ススル」は日本人だけの特権であり、欧米人には真似の出来ない特技なのかもしれません。

「ススル」食べ方は欧米の慣習にはないし、マナー違反だと教えられます。

でも彼らは、マナー違反だからすすらないのではなく、単に「ススル」ことが出来ないからだ・・・

 

伝統的なお茶の作法では、お茶碗に残った最後のひと口をズズッと吸い切ります。

また、無声無音で食する事を旨とする禅宗の精進料理にあっても、麺類だけは例外的に音をたてて食してもよいことになっているそうです。

「恥ずかしいから、そんなにズルズル音をたてないでお蕎麦食べて!」

って言われても、日本人なら自信を持って、誇りを持って、思いっきり年越し蕎麦をススリましょう!

 

「ズズッ、ズズッ」っと大きな音を響かせて!

 末尾になりましたが、くる年もどうかよろしくお願い申し上げます。

 取締役社長 池田 郁英

(写真はすべてインターネット画像集より)