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うす味と能面 池田郁英2016.04
『うす味と能面』
料理の味付けにおいて、関西は関東に比べてうす味だと言われます。
かつての京都は公家社会、江戸は武家社会、その肉体運動量の差が好まれる味の濃淡になって表れた・・・。
その土地に定着した遠い祖先が農耕民族と狩猟民族に大別できるから・・・。
たんなる風習の違いだから・・・
等々、その根拠と理由が語られます。
もちろん、料理の味は好みの範囲、それぞれには優劣はありません。
日本の伝統芸能の一つに能楽があります。
能演者がつける能面・・・これも日本の伝統芸術の一つです。
能面は、演者の所作一つで悲しみの顔にも、怒り、恨み、喜びの顔にもなる。それこそ数ミリ、数センチの繊細な動きで能面の表情が変わり、私たちを幽玄の世界に誘います。
能面は名人が使うと血が通うと言われ、演者の心を写し出すだけではなく、観る人の心も写し出します。
一方、料理のうす味は「だし」に秘密があります。
料理人は、この「だし」のこくと奥ゆかしさにこだわります。 関西、特に京都の料理人によって受け継がれてきた「だし」に対するこだわり、それによるうす味は能面と同じく、料理人の心、素材の心、食べるひとの心を写し出します。
絶妙な「だし」にくるまれて、いろんな食材のうまみが引き出される・・・
うす味は単に味無いだけではない。
能面は単に無表情なだけではない。
不必要と決断した要素を全て剥ぎ取った結果、広がり来る無限なのかも知れません。
うす味と能面とは同じ文化です。
取締役社長 池田郁英
(写真はすべてインターネットフリー画像集より)